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はじめに—EBMとは—
臨床医学の主導理念として,近年,EBM(evidence based medicine)という考え方が注目を集めている.EBMとは文字通り「根拠に基づいた医療」を意味し,「根拠に基づいた」推論がなされることによってのみ,臨床的な判断は精緻なものになるという主張である.このような根拠に基づいた推論の重要性の指摘は,自然科学そのものの方法として既に周知のものでもあり,EBMに対して,「何を今さら」という感を持たれる向きがないわけではない.しかしEBMの主張の新しさは,これを単に病態生理などの医学の基礎領域の研究だけではなく,医療の現場に持ち込み,臨床医学における問題解決の方法にまで高めようとするところにあるといえる.そういう意味では,EBMとはひとつの理念というよりはむしろ具体的な行動の指針といってもよいものである.
周知の価値や理念が改めて強調されるのは,それが危機にさらされているような場合において多いといえる.実際,医学においても生物医学面の研究では科学的な吟味がかなりな程度履行されているとしても,多様な要因が絡まる臨床医学においては,現在でも「経験に根ざした直感」が,判断の基準になっていることが少なくないということらしい.さらに臨床上の問題が複雑になればなるほど,そういう直感の中に,組織におけるヒエラルキーや人間関係がバイアスとして侵入する可能性も大きくなってくる.このような証拠に基づく検証を欠いた体験主義への一辺倒を批判し,医療がもともと多元的な要素から成り立っているものであるからこそ,その推論の過程を明晰にする必要があるとするのがEBMの中心的な理念といえる.
EBMは,このように医療における自浄作用として生まれたものではあるが,この試みは臨床医学の枠を越えて他の医療・保健関連職の臨床的な判断の指針としても受け入れられつつある.作業療法においてもEBMということばが聞かれるようにもなり,EBMが持つ理念や方法論が作業療法が固有の理念とどのように融合しうるかという検討がなされようとしている.本稿ではそういう動向を受けて,EBMが作業療法の方法論として定着するためには,どのような問題があり,それ克服するにはどうすればよいかという点について考察してみたい.
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