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患者になってはじめてわかることがある.60歳代半ばの回復期リハビリテーション病棟専従医(K先生)が右橋腹側に広範囲に及ぶアテローム型梗塞で倒れた.発症10日後に自身の勤務先である回復期リハビリテーション病棟に移った段階では,SIAS運動機能は1レベルであった.私は事務長や技師長から「どのくらいの治療期間が必要なのか,歩けるようになるのか,復職できるのか」と質問された.1週間で端座位が取れたため,歩行自立すると確信できた.しかし重度の左片麻痺に加えて,構音障害,摂食嚥下障害もある.復職に関しては正直,確信がもてなかったが,リハビリテーション科医師として復職してほしいという願望が確信を上回ったのか,「2カ月半で退院,3カ月で復職できます」と言い切った.
K先生に落ち込んでいる暇はなかった.自主トレーニングとして,スクワット(1日400回),起き上がり訓練,体幹筋トレーニング,運動イメージを行った.理学療法では,トレッドミル型の歩行支援ロボットを重点的に使用した.最初はアシストレベルを調整したうえで30〜40mの連続歩行がやっとだったが,カフが当たる左大腿内側部の擦過傷が褥瘡一歩手前になるまで歩き込み,5週時に1,000mを超えたとき,歩行支援ロボットは必要なくなった.左手関節伸展機能改善を目的に随意収縮介助型電気刺激も日々行った.電気刺激に頼りすぎると指伸展の分離がしにくくなるという,専門家でないと気づけないであろう現象を教えていただいた.上下肢ともある程度まではロボットや電気刺激が有用だが,‘離脱’のタイミングの見きわめも重要だと改めて教えられた.退院時(発症後2カ月半)に左第1指に軽度の痙縮がみられたが,自宅で洗髪動作を始めると左第1指IP関節伸展の分離動作が可能になり,痙縮も消退した.必要に迫られた(?)use-dependent plasticityといえよう.SIASは3〜4レベルまで回復し,3カ月で見事復職を果たされた.
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