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1980年代初頭,摂食嚥下リハビリテーションの専門家は存在しませんでした.80年代後半,私がこの専門性について米国の世界的リハビリテーション科教授に相談したとき,やめたほうがよいと忠告されました.当時,私を含めほとんどの人間が,嚥下は,不随意な反射運動,体外からみえない,介助できない,などの点で,その練習可能性についてきわめて悲観的に考えていました.しかし,ご存知のように,実際には大きな社会的ニーズに後押しされながら,1つの臨床領域として目覚ましい発展を続けています.そして,その発展の基盤となった嚥下造影(videofluorography:VF)は,被曝,誤嚥という問題を乗り越えて,臨床で常用されるようになりました.
90年代に入って,VFの有用性は,「見えない誤嚥を可視化する」という危険管理上の意義を超えて,その「治療指向的性質(treatment-oriented nature)」にあると考えるようになりました.すなわち,VFは,嚥下練習のPDCAサイクルを回すために必要な評価(C:check),つまり,「結果の知識(Knowledge of Results:KR)」と「パフォーマンスの知識(Knowledge of Performance:KP)」を与えてくれます.そして,ギリギリ誤嚥しないというKRが「適切難度課題」を,体位・肢位などのKPが「スキルのコツ」を教えてくれるので,練習・対応計画の精緻化ができ,摂食嚥下リハビリテーションの実効性が高められると考えるに至りました.
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