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はじめに
リハビリテーション医学の大きな役割は,単に身体面の回復ばかりでなく,生活活動さらには心理面までをできる限り最大レベルまで高めることです.この点,漢方医学では「心身一如」という考え方で患者さんを大きく捉えて,心のつらさと体のつらさを切り離さず治療するので,リハビリテーション医学と親和性が高いといえます.
漢方医学は1,500年以上の歴史をもつ日本の伝統医学です.古代中国医学にルーツをもちますが,日本で独自に蓄積された臨床経験をもとに独自の理論が形成されています.漢方医学には,湯液(漢方薬を使った治療),鍼灸,そして推拿(すいな)が含まれます.
また例えば,慢性疼痛は全人的苦痛として捉えなければならない,といわれていますが,漢方医学では多面的なアプローチが可能です.実際,漢方医学科における慢性疼痛患者は多く,漢方医学的治療は,疲労倦怠感やストレスに伴って悪化する疼痛を改善し,リハビリテーションに対する意欲を高め,ADLを改善する手段となります.日本の漢方薬治療の最大の特徴は,医療用漢方製剤(エキス剤)148種類,調剤用生薬約200種が,医師の診察により,健康保険で薬剤投与を受けられることです.品質・安全性が管理されているため,安心して服用することができます.鍼灸に関しては,療養費の給付という形式で患者負担が軽減されることもありますが,自由診療で,病院とは別の施設である治療院などで施術が行われる場合が多いため,医師が鍼灸治療の効果や有害事象を知り,情報を聴取しやすい状況を作ることが大切です.
漢方薬の効果機序に関しては研究も進んできています.疼痛のみならず,嚥下機能の改善や呼吸機能の改善,高齢者のフレイルに対する補剤(人参養栄湯,十全大補湯など)の有効性など,他の治療では得られない効果も報告されています.鍼灸治療の疼痛改善効果は,その効果発現機序が一部解明されていることもあり,欧米では湯液治療よりも利用されています.また,Cochrane Systematic Reviewにも鍼灸治療の肯定的な結論が述べられている疾患や症状が掲載されています1).
以上から,漢方医学とリハビリテーション医学を融合することによって日本独自の治療として発展させられると考えられます.この利点を生かすことは,患者さんの苦痛を軽減し,社会経済にも大きく資すると考えられます.
本稿では,漢方医学がリハビリテーションによる“もう一度能力を回復して人間らしい社会生活に再適合するための過程”にどのように役立つのかお話しします.
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