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ニューロリハビリテーション(以下,ニューロリハ)は,神経科学的な知見を基礎とする臨床医学の一領域である.神経科学(neuroscience)は,1980年代の後半から大きな発展を遂げており,多くの興味深い知見が得られているにもかかわらず,それが臨床医学に十分に活かされているとはいえない時代がつい最近まで続いていた.その1つの理由は,臨床医学の多くの分野はその基礎を病理学に置いており,脆弱因子→病理学的変化→発症といういわゆる古典医学的な発想からの展開で疾病への対応がなされ,また各領域の医師のトレーニングも,それに根ざしているからである.例えば筆者が長年専門としてきた小児を対象としたリハビリテーション(以下,小児リハ)の領域では,その基礎となる神経系の発達の理解は,神経科学的な知見という神経病理とは明らかに異なる知識が必要となる.そのことを知らずに小児リハの道を選んだ当初は,臨床で周産期に問題があった子供さんのフォローアップをしていても,目の前で進んでいる正常発達と異常発達の違いは,どういった神経科学的な基盤で進んでいるのかが理解できず,悩み続ける時期が長く続いた.
要するに,周産期の脳の障害を引き起こすようなイベントがあっても,正常な運動発達を遂げるお子さんとそうでないお子さんがいることがなぜなのか,原始反射の残存や過敏性などの徴候があって将来的な運動の障害が予想されていても,それがどのような神経科学的な機序で異常な運動の増強につながっていくのかということなどを理解できていなかったのである.悩み続ける私にわずかな光を与えてくれたのは,Njiokiktjien著のPediatric Behavioural Neurology1)という書籍であった.これはたまたまNeuro Developmental Treatment(NDT)の8週間コースに参加するために1988年,ロンドンに滞在しているときに現地の書店で見つけたものだったが,当時の最新刊で,シナプス形成に根ざした神経系の発達が2歳までに非常にドラスティックな経過をたどることを解説してあり,私が臨床でみていた事象の理解を驚異的に進めることにつながった.
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