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はじめに
Brain Machine Interface(BMI)は,脳と機械を直接相互作用させる技術の総称である.脳は通常,身体を介して外部環境と関わりを持つが,その仲介となる身体を省き,脳と外部環境を直接作用させよう,という発想がBMIである.こういった考え方によって,完治が困難な身体障害を工学的に克服することがBMIの目標の1つになっている.
運動障害に対するBMIの応用事例は主に,電動義手や電動装具の制御(いわば,失った上肢機能の代替を目指すもの)と,パーソナルコンピュータやテレビなどの家電制御(いわば,環境制御装置としての機能を目指すもの)に大別される.このように,失った運動機能の代償をする「機能代償型BMI」に加えて,最近では神経系機能の再構築を目指す「機能回復型BMI」のコンセプトも示されつつある(表).
BMIに用いられる脳活動計測は,その侵襲性によって3つのタイプに分けられる.すなわち,針電極を用いて脳に直接電極を差し込み,神経細胞のスパイク電位を計測する侵襲的な計測方法,硬膜下電極を利用して脳表から局所電位を記録する低侵襲的な方法,頭皮上に皿電極を貼付して脳波を計測する非侵襲的な方法,の3つである.非侵襲的な方法としてはほかに,神経細胞の電気的活動によって生じる磁場変動を計測する脳磁図,機能的磁気共鳴画像法,神経活動によって生じる血流動態の変化を吸光スペクトルとしてとらえる近赤外分光法も存在するが,前二者は計測に際してシールドルームが必須であり,後者は時間特性が悪いことから,BMIに利用した例はそれほど多くない.
当然のことながら,詳細な脳活動を記録分析できる計測手段を用いたほうが,精度の高いBMIを構築することが可能である.また,針電極を用いた脳活動計測の場合,古くから脳科学分野で培われた詳細な細胞活動特性の知見を活かせる点で,研究の具体的道筋が立てやすいように思われる.頭皮脳波は,これら侵襲性のある脳活動計測方法に比べると,空間分解能に劣るほか,体動ノイズや環境ノイズに影響を受けやすいという欠点がある.では,頭皮脳波を用いたBMIが臨床的に意義を持つためには,何が必要であろうか?
頭皮脳波を用いたBMIの利点は,身体的にも精神的にも被験者の負担をかけずにシステムの導入が行えることである.BMIの利用を中断するときにも容易であり,被験者の心理的障壁が比較的低い.計測システムは最も安価で,産業化への道筋が最もつけやすい.頭皮脳波から判別可能な運動関連脳情報は極めて限られるものの,それらを確実かつ即座に判別でき,脱着しやすい安価なシステムとして提供することができれば,重度運動障害者に対する環境制御装置あるいは意思伝達装置としての価値は十分に認められる.また頭皮脳波は,眼電図や頭部や頸部の筋電図など,さまざまな生体信号の混入が避けられないという欠点を持っているが,BMIの想定受益者である重度運動障害者のなかには眼球運動,呼吸や嚥下活動,表情筋などの随意性が残存しているケースは多く認められるので,種々の随意運動に起因するノイズも脳波同様に弁別し,機械制御に用いることで,より実用的なシステムを構築できるものと思われる.
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