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はじめに
脳卒中,脊髄損傷,脳性麻痺,神経・筋疾患,骨・関節疾患,切断などの原因により肢体不自由となった方の数は約176万人と推計されているが1),障害された,もしくは,失われた機能を補填するための革新的医療技術を開発・実用化することは,本人の日常生活動作(ADL),生活の質(QOL)の向上および社会参加の促進をもたらすだけでなく,社会全体の医療・介護に係わる負担を軽減するうえで重要な課題である.
Brain Machine Interface(BMI)は,脳機能の一部と機械を融合させ,障害を低減するための技術である(図1)2).近年,世界各国で精力的な研究が展開されるようになり,発表される論文件数も飛躍的に増加しつつあるが(図2),BMIの臨床応用が実現すれば,障害を持つ方々にとって大きな福音となることが期待される.
BMIには,感覚系を介して外界の情報を脳に取り込む(コーディング)入力型BMIと脳活動を解読して(デコーディング),外界に働きかける出力型BMIがある2).さらに,BMIは,脳信号の読み取り方式により,直接,脳に電極を刺して信号を読み取る侵襲型BMIと,頭皮上から脳波などを観測する非侵襲型BMIの2種類に大別される.侵襲型BMIは,米国を中心に研究が進み,locked-in syndrome3)や頸髄損傷4)などによる重度障害者が,パソコン上のカーソルを「考えるだけで」動かしたり,テレビのスイッチやチャンネルを操作したりできるようになったなどの成果が報告されている.一方,非侵襲型BMIは,ドイツと米国を中心に応用を見据えた研究が進み,肢体不自由者5)だけでなく,一般人のゲーム用入力装置としての応用も試みられている6).
わが国は,近赤外分光法(NIRS)や脳磁図などを用いて非侵襲的に脳の活動を読み取る先端技術やロボット技術に秀でているものの,これまではBMIそのものに関する研究の取り組みは遅れていた.このような中で,2008年より5年間の予定で,文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」(以下,脳プログラム)が開始された7).脳プログラムでは,独自のBMI要素技術と高度先端医療機能を有する諸機関が複合体を形成し,それぞれの強みを持ち寄りながらBMI研究を統合的に推進することによって,わが国のBMI研究の競争力を高め,この分野で世界をリードすることを目指している.以下,脳プログラムの概略とリハビリテーション(以下,リハ)医学の立場から果たしうる貢献について述べる.
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