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はじめに
高齢化社会において,健康寿命の延伸は喫緊の課題である.要支援・要介護に至る原因において運動器疾患は大きな割合を占めるが,中でも骨粗鬆症性脆弱性骨折への対策は重要である.骨粗鬆症性脆弱性骨折のうち,骨粗鬆症性新鮮椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture:OVF)は最も頻度が高い13).骨粗鬆症性椎体骨折は,初期には強い痛みをもたらし,慢性期においても腰背部痛,姿勢異常の遺残を生じ,高齢者のQOLを著しく低下させる8).さらに,後弯変形は歩行障害のみならず心肺機能の低下,逆流性食道炎などの内臓疾患を生じることもある.また,椎体骨折数が増えるにつれ死亡率も増加するという報告もあり2),OVFは近年では生命予後に関わる問題であると捉えられるようになってきている14).
骨粗鬆症性疾患の治療体系において,骨粗鬆症への薬物治療や,椎体骨折後変形・神経障害への手術治療の進歩が進む一方で,新鮮OVFへの保存治療の進歩は大きく後れを取っているといわざるを得ない.OVF受傷直後の疼痛は,安静臥床と局所の固定(体幹ギプスや硬性装具,あるいは軟性装具など)で経時的に軽減し,受傷から1年後には8〜9割の患者の疼痛が軽減して受傷前のQOLを獲得することが可能とされる3).したがって,保存療法がOVFに対する初期治療において重要であることは疑いがない.しかし,新鮮OVFに対する保存治療に関して,安静臥床や体幹固定の期間や方法についてのエビデンスは国内外を通じてほとんど認められず,それゆえに標準化されていない.したがって,標準化されていない治療方針の下でOVFの治療が行われているのが現状である.遷延治癒や偽関節となる症例や,さらには認知症の進行や運動機能低下によるADL,QOL低下例も多くみられる.
装具治療の目的は,動作を制限することにより痛みを抑制すること,脊椎を非働化することにより損傷された構造を安定化すること,椎体変形の進行を抑制することである11).そのため,カスタムメイドされた硬性装具は理論上,軟性装具よりも骨折した椎体を支持・保護することができると考えられる.椎体変形予防について,およびその結果としての疼痛,QOLへの影響についての硬性装具の理論上の優位性が考えられる一方で,これまでに装具の有用性について検討したランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)はほとんど存在しなかった.そこで,本邦において日本整形外科学会プロジェクト「骨粗鬆症椎体骨折に対する保存療法の指針策定のための探索的臨床研究」(2011年)および,厚生労働省長寿科学研究「骨粗鬆症椎体骨折に対する低侵襲治療法の開発」(2010〜2012年)が行われ,少数例のRCTにおいて装具治療の必要性,有効性が検討された.その結果によれば,装具の種類により疼痛・QOLの改善度合いにおいて有意差を認めなかったものの,椎体変形の程度に関しては初期にギプス固定を行うことにより,初期の安静臥床(装具なし)と比較し,有意にその進行を抑制した.しかし,偽関節率に関しては明らかな有意差を認めなかった1).しかしながら,その一方で,装具なし,軟性装具,硬性装具の比較において,椎体変形の程度,疼痛,QOLなどにおいていずれも有意な差を認めなかったとするRCTも存在する10).したがって,現時点でのエビデンスからはOVFに対する装具の有用性は明らかではなく,実際のところ,各臨床医の個々の判断によって,治療に使用する装具が決定されているのが実情であった.
そこで,われわれはOVFに対する保存的初期治療法の指針を策定することを目的とし,本学を含めた全国13大学の研究分担者と共同で,それぞれの関連施設も含めた多施設共同のOVFに関する装具治療の治療成績に関する比較を目的とした大規模RCTを行い,解析した6,9)ので,その結果について本稿で報告する.
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