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はじめに
脳卒中は,主要死因となるのみならず,後遺障害の最大要因として保健衛生上の最優先課題の1つとされている.厚生労働省の「人口動態統計の概況」によると,脳卒中死亡数は約11万人,全体の7.9%を占め,全死因の第4位である.今後,さらなる高齢化の進行に伴い,患者数はますます増加していくと予想される.脳卒中は,いずれの病型であっても,永続的な後遺症が残存する可能性が高く,介護が必要な原因疾患として全体の約18.4%を占めており,要介護者の割合では30.8%と1位である8).脳卒中患者の歩行障害は,約6割の確率で起こるとされ5,20),自立した生活が不可能となり,患者とその家族の負担,医療費の増大につながる.そのため,リハビリテーション治療により歩行障害を軽減することは重要な課題といえる.
ヒトの二足歩行は,大脳皮質,大脳基底核,下位の脳幹,小脳,脊髄により階層的に制御されている.歩行時における協調的な四肢の運動や姿勢制御は,脳幹や脊髄などの下位中枢で無意識かつ自動的に遂行される.一方,外部環境適応のための随意的な歩行調整は,上位中枢での制御により遂行される18).
20世紀までは,脳をはじめとする中枢神経は,脳卒中などで一度損傷すると再生することはないと考えられていた.そのため,従来のリハビリテーション治療のアプローチは残存機能を生かすためであり,非麻痺側の機能を積極的に高めて麻痺肢を代償するというアプローチであった.しかし,近年の研究で脳卒中などの中枢神経損傷後の運動障害の回復は,罹患肢の使用経験に伴って,脳の可塑性に基づく神経ネットワークの再構成(use-dependent plasticity)と関連することが明らかになった12).脳の可塑性は,ある程度まで自然回復が望め,積極的なリハビリテーション治療により脳の可塑性をさらに推進し修飾するとされる.このことより,急性期からの積極的な歩行訓練が望まれる.Langhorneら9)は,脳卒中後の運動機能の回復を目的としたアプローチ方法について検証し,歩行能力の改善には心肺機能向上を目的としたフィットネストレーニング,高強度トレーニング,歩行運動を具体的な課題として,難易度を考慮しながら直接的に練習し学習していく反復的課題指向型訓練に効果が認められるとしている.脳卒中歩行訓練の原則は,脳の可塑性が期待できる急性期に集中的な課題指向型の歩行訓練量を確保することであると考えられる.
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