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はじめに
わが国で診療されている外傷患者の受傷機転は,交通事故と転倒・転落によるものがその8割を占めており,いずれの受傷機転においても脊椎・脊髄外傷を伴う可能性が高い.多くの救命救急センターを含む244外傷診療施設が参加して構築されている日本外傷診療データベースの2015年版には,2010〜2014年の5年間で141,060例の救急搬送された外傷症例が登録されており,そのうちの脊椎・脊髄外傷は23,548例(16.7%)と報告されている10).一般的に全外傷の2〜4%で脊椎・脊髄損傷を認めるといわれている5)のに比して,かなり高頻度であるのは,登録参加施設が多発外傷などを主に扱う救命救急センターなどの高次医療機関であるためと解釈される.
外傷患者の予後を改善するためには,外傷手術を担う外科系医師のスキルや入院病棟での管理が重要であるのはもちろんだが,同時に社会全体として,交通事故防止などの外傷の予防,受傷から医療機関を受診するまでの救急システムの整備,研修医や看護師を含めた病院内で救急初療を担当するチームの能力向上も大切な要素である.さらに,急性期病院での治療に続くリハビリテーションや職場復帰,家庭復帰に向けた社会制度整備まで,一連の対応を含めて論じなければならない.受傷機転の最多を占める交通事故は,酒気帯び運転の厳罰化などを含む道路交通法改定が効果を発揮して,2004年以降発生件数も救急搬送件数も年々減少傾向にあるが,一方で今後さらに問題となる人口の高齢化に伴って,転倒・転落事故は増加しており,全体の脊椎・脊髄外傷症例は減っていない.
本稿では,予防に続く救急システムの観点から,脊椎・脊髄外傷に対する現場での対応を救急隊員の立場と現場に出動する医師・看護師など医療チームの立場から解説する.
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