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はじめに
脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)は生理的条件下では水様透明の液体で,比重1.005〜1.009,10〜40mg/dlのタンパクと50〜75mg/dlの糖を含む.組成は組織液であるリンパ液とほぼ同等である.脳室内の脈絡叢で産生されたCSFは第4脳室出口を通過すると,一部は脳表くも膜下腔へ向かい上行,一部は脊髄腔を下行した後再度上行し,脳表くも膜下腔へと至る.これらの経路においてCSFの多くは脊髄神経鞘に存在するくも膜顆粒,あるいは上矢状静脈洞内に突出するくも膜顆粒から静脈内に吸収されると考えられてきた3,4).一方,脳室内と脊髄腔ではCSFの性状が異なり,後者のほうが比重,タンパク濃度が高いことが知られている.くも膜顆粒の大きさも頭蓋腔と脊髄腔では異なり,後者のくも膜顆粒は前者に比べはるかに小さく顕微レベルである4).以前より,くも膜顆粒からの吸収のみではCSFの動態を十分に説明できないことが指摘されてきた.1996年,Greitzら2)によりCSFは脳内の毛細血管からも吸収される可能性があると報告された.続いて,動物実験に基づき前頭蓋底経由でリンパ管からもCSFが吸収されるとの説が提唱された5).現在,CSFの機能として,①脳に加わる外力を緩衝,②頭蓋内圧のコントロール,③脳・脊髄の代謝産物の排泄,④栄養因子やホルモンの運搬,などが想定されているが,多くは動物実験から得られた知見が基礎になっている.これらの仮説を人体で検証することには種々の問題・困難が伴うため,各々を明快な方法で示し得た報告は少なかった.本稿では,自験の臨床例から得られた知見とともに,いまだ仮説の域を出ないCSFの機能を概観したい.
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