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Key Questions
Q1:逆境的小児体験が与える影響により,生きにくさや生きづらさを抱えている方の過去から現在をいかに理解できるか?
Q2:自己肯定感を高め,今の自分でも何とかなるかもしれないと感じられるかかわりとは?
Q3:人生の意味や目的を見いだして,自分らしく充実した生活を送るための,リカバリーを促進する支援とは?
はじめに
内閣府1)によれば,「ひきこもり状態にある者は令和4年度の実態調査(15歳〜64歳の生産人口)において推定146万人いる」との結果が示されている.また,ひきこもり支援においては,ほっとできる空間としての「居場所」や,寄り添おうとする「人」の存在が重要であり,本気で本人家族の状況やニーズを受け止め,本人がひきこもる状況に至るまでの痛みや苦悩,不安を感じ取れているか等,真摯に理解を寄せていく姿勢と,信頼関係の構築が必要不可欠といわれている1).加えて,カイザーパーマネンテ(アメリカ最大級の健康保険組織と連携した医療機関)と米国疾患予防管理センターの共同研究では,「逆境的小児期体験(以下,ACE)によって健康リスクが高まり,ACEsとトラウマは「肥満・精神疾患・ひきこもり・仕事の欠勤」などの問題行動や身体的・精神的問題の出現要因,すなわち,公衆衛生問題の決定要因であるとされている2).ACE研究では,良質な対人関係を育むことがトラウマの改善において効果が高い(対人関係療法などの効果が高い)ということがわかっており,現在「いま,ここ」にこそ,トラウマの影響が垣間見え,そこに対応することができる2)とされており,環境調整や寄り添う人とのつながりが,生きづらさの回復の助けになることを示唆している.
野中3)は,“リカバリーは障害や疾病からの回復のみを意味するのではなく,生活の主体者としての機能,自尊心,社会的役割を回復すること,障害があるにもかかわらず人生とその意義を回復すること”と述べている.また,鶴見4)は“健康な面やその能力が拡大すれば,問題点や障害の部分は相対的に小さくなることになる.地域生活支援を行う過程の中で,支援者は「障害の部分に焦点化しすぎてないか」など,自己の評価についてモニタリングを常に行っていく必要がある”と述べている.今回,ACEsに加えて死を意識するようなPTSD(心的外傷後ストレス障害),性同一性障害のある事例を担当し,ストレス脆弱モデルと生物心理社会モデルの要素を用いて個別性・特性を重視し,本人の助けになるものやストレングスに焦点を当てた支援を行ったことで,リカバリーの促進につながる支援が行えたので報告する.事例報告を行うにあたり,本人から口頭にて同意を得た.また,院内の倫理審査委員会の承認を得ている(承認番号20241009-1).
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