提言
HeartyLadder,MyVoice—自分の声を録音して使う
本間 武蔵
1
Musashi Honma
1
1東京都立神経病院
pp.972-973
発行日 2017年9月15日
Published Date 2017/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001201047
- 有料閲覧
- 文献概要
私は,2005年(平成17年)より今日まで,患者さん自身の声を録音してパソコンに保存し,入力された文字列に合わせてその人の声で読み上げる取り組みを行っています.その背景には,気管切開前後のかかわりの中で“声が失われることをどうにかできないか”と思っていたこと,作業療法室の近くに言語聴覚療法部門があり,そこには音響分析装置と聴覚検査のための防音室(無響室)があったこと,さらに,九州のALS患者さんが50個のカセットテープに50音を1音ずつ録音して,それを入れ替えて発声を試みたという話を以前どこかから聞いていたことがありました.
そして,ある60歳前後の女性患者さんに50音を録音してみようと働きかけ,慣れない音響分析装置で単純に50音の録音をして,「こ」,「ん」,「に」,「ち」,「わ」と再生したところ,涙を流して喜ばれ,私も「確かに○○さんの声だ!」と驚き,その患者さんと一緒に手を取り合って喜んだように記憶しています.STからは,語中の音素(「あ」,「い」,「う」……)は,前の音が終わらないうちに始まり,後ろに続く音に途中から変化する(ことが多い)ので,単純に音素を言葉の順番に並べても声のようにはならないとの助言があり,あきらめ半分での試みだっただけに,こうして音の粒にその人を感じたこの瞬間が,まったく新しい世界への第一歩だったように思えます.
Copyright © 2017, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.