増刊号 認知症と作業療法
刊行にあたって
小川 敬之
1
1九州保健福祉大学
pp.545
発行日 2015年6月20日
Published Date 2015/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001200250
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先日,数年前よりかかわっている村(人口約2,000人)で老夫婦二人の生活支援に携わりました.夫は軽度の認知症(CDR1程度)であり,奥さんも膝が悪く生活はままならない状況.息子夫婦は村を出て隣の市に住んでおり,自分たちと一緒に住むように話をしているのですが,老夫婦は頑として村を出ようとしません.
そんなある日,奥さんが膝の手術のため家を空けなければならず,認知症の夫だけが家に残る事態が起こったのです.そのため夫に一時期,息子のところに行くか施設に入ることを説明しますが,やはり頑として聞こうとしません.そこでヘルパーを最大限入れ,近所の方にも説明し,デイサービスの活用もフルに行いながら,何とか看ていこうと家族や関係職員皆で協議し,不安のなか認知症の夫の独居生活が始まりました.ひと月ほど経ち,家族や周辺住民の協力もあり思ったほどの問題もなく平穏に日々は過ぎていき,意外にできるものだと安堵していた矢先のことでした.ボヤを起こし,台所と玄関を半焼してしまったのです.私たちも「しまった」という想いと,なぜあのときに無理にでも施設入所をさせなかったのかという反省の念が頭を渦巻きました.夫にはまったくけがはありませんでしたが,家は修理が必要な状況です.さあ,どうしようと皆で焦りました.しかし,その状況を見た夫は「ここには住めんな(住めないな)……」と一言いって,あんなに拒否していた施設への入所をあっさりと受け入れたのです(息子のところには絶対に行きたくないとのことでした).そして今では「みんなに親切にしてもらって」と比較的穏やかに生活をされています.
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