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今号の第12巻第2号では腹部救急疾患に対する腹腔鏡下手術を特集し,7人の先生方にそれぞれの疾患について解説をいただいています.対象疾患は,外科領域で初期研修の際に急性腹症として先輩方から教えられたものが多く述べられています.まだ議論の多いイレウスについての適応とその限界から胃十二指腸穿孔まで幅広く解説されています.私が外科研修を行った20年ほど前には,急性腹症や腹部外傷に腹腔鏡を用いた治療を教わることはありませんでしたので,隔世の感があります.現在,医療環境・社会的背景も大きく変化している中で,われわれが研修医に指導している治療も,今後はまた大きく変わっていくことと思います.最近では各疾患に対するガイドラインが作成され,治療を正しく導く指針が示されるようになってきました.急性胆管炎・急性胆囊炎の診療ガイドラインでは早期の腹腔鏡下手術が望ましく,欧州内視鏡外科ガイドラインにも外傷に対する腹腔鏡検査の有用性が認められていることなどが記載されているようです.
ガイドライン以外にも,医療環境で大きく様変わりした代表として研修医制度があります.残念ではありますが後期研修で外科を志す若い医師が少なくなり,本誌を読まれている外科の諸先生の中にも現状を嘆いておられる方も多いことと思います.腹部救急疾患に対する腹腔鏡下手術を行い,習得した手技を後輩に引き継ぐことができなくなる可能性もあります.最近ではNHKで“working poor” が社会現象の1つとして報道され話題を集めています.第1回目は2006年7月,第2回目は12月に放送されました.その意味は “働いても働いても豊かになれない…….どんなに頑張っても報われない……”などとあります.第2回目の副題は,“努力すれば抜け出せますか”でした.経済的側面は別にして他の角度からとらえると,外科系医療現場でもworking poorの時代に入りつつあるのではないだろうかと感じます.社会的な責任や訴訟などの重圧と深刻な外科系医師不足の両面から,どんなに頑張っても報われない状況が生じているのかもしれません.副題の“努力すれば抜け出せますか”の問いかけの答えは,若い外科系医師が1人でも多く医局に戻ってきていただき,活気ある職場になっていくことにあるのではないかと考えます.魅力ある医療技術を学んでいただく機会が多い内視鏡外科も,その中で確かに一役を荷えるのではないかと思います.
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