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内視鏡が本格的な手術として登場したのは,やはり1990年前後より始まった胆囊摘出術が先駆けであろう.その後は,各領域でそれぞれ従来の手術の中から展開を図りながら,現在に至っている.その間には器具や術式の開発・改良などによる適応の拡大化,さらには新たなメディアの導入などで,患者へのQOLの提供を目指した内視鏡手術はこの20年足らずの短期間で目覚しい発展をなしてきた.しかし,内視鏡手術の進化の過程では,忘れることのできない幾つかの不幸をもたらした事実も刻まれている.そのような負の遺産を克服すべく,本学会においても内視鏡手術の健全な普及と発展を目指した“技術認定制度”を立ち上げ,国民からも分かりやすい医療水準の現状提供も図ってきた.さらには後継者の育成を促進すべく後期臨床研修の課題にも内視鏡手術は必須項目になる予定である.一方,他の業界でも起きている再編化という新たな流れが,医療界の中にも大きな潮流として押し寄せている.その1つとして,内視鏡手術の中でも“集約化”という新たな展開が動き出しているようである.しかし,功罪はあるものである.対象患者からは喜ばれる反面,従来の医療形態とはそぐわない医療体系に批判的な意見もあろう.生みの苦しみともいえる一定の期間は耐え忍ぶ時間の流れも必要と思われる.
しかし,周辺からは,内視鏡手術に対する患者の期待の大きさや機器や器具の取り扱いなどの不安もあったが,クリニカルパスを生かせる円滑な管理や,術者と同じ情報の共有化による一体感から,より積極的な治療参入につながるとの声もある.また,麻酔医師からは,従来の手術法に比べ硬膜外麻酔を要しない分麻酔時間は短く,麻酔管理も行いやすい反面,かえって手術の増加につながるしわ寄せや,難度の高い症例による大幅な予定時間の延長を大きな問題点として挙げている.一方,病院経営の面からはいかがであろうか.外来でも入院でも一人当たりの医療費単価は約1.5倍上がり,希望患者の増加により経営面では功を挙げるが,麻酔医師の待遇改善,手術枠の確保,看護師や医師に対する満足度の充足,待ち患者の解消などが課題となろう.しかし,内視鏡手術の“集約化”は始まったばかりで,その展望や方向性はこれからのことになろう.
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