第24夜 「沈黙」は美徳ではない 危険なのだ—弱みを見せて，最高のチームづくりを！

『シェヘラザード』の依頼が届き，まず麻酔科医としての自分の28年を思い返してみた。家の本棚に眠っている昔の学会発表や事例検討の資料をまずはあさった。その中で印象に残っている私の「失敗体験」をお話ししよう。

　症例1は，高カリウム血症からの心室細動。症例2は，麻酔後のくも膜下出血。《なんかおかしいけど…》《誰かに相談したいけど言いにくいなあ…》と，ウジウジしている間に対応が遅れてしまった症例たちだ。懸念は確かにあったのに言い出せなかった。今でこそ，「ヒューマンエラー」，「報告制度」，「チームワーク」，「コミュニケーション」「心理的安全性」など，安全管理に関する用語は数知れず，医療でも安全体制が施設ごとに組織される環境になりつつあるが，私が麻酔科医になった頃は，安全文化の概念はなかった。

　麻酔は一人でする仕事，むしろ一人で解決できなければプロではないと意気込み，早く一人前の麻酔科医になりたいと焦っていた。時代は変わり，若い元気いっぱいの麻酔科医の皆さんには見当違いだ，学生時代から習っているよ，と笑われるかもしれないが，特にちょっと控えめキャラの方々の日々の業務のお力添えになれば嬉しい。