別冊春号 2023のシェヘラザードたち
第10夜 「これ以上はもう限界です」—私が初めて手術をやめさせた日
阿部 龍一
1
1奈良県立医科大学 麻酔科学教室
pp.53-58
発行日 2023年4月24日
Published Date 2023/4/24
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200330
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が医療の世界だけでなく社会構造そのものを変化させ,約3年が経過した。もはやフルPPE*1で麻酔をしなくてはならない症例も珍しくなくなってしまい,この状況がいったいいつまで続くのか不透明なまま,それに負けず劣らず不透明な視界の中で脊麻の針から逆流してくる妊婦の髄液を見つめる今日この頃。
COVID-19の影響で,当院では手術室での気管切開症例が増えた(図1)。ICUのベッドと人員の一部を重症のCOVID-19患者に割り振ったことで,ICUのベッド数だけが減って,減らない重症患者の早期ICU退室のために気管切開を選択せざるを得ない症例が増えた影響だと考えられる。
読者のなかにも,人工呼吸器の台数制限,ICUのベッド数の制限で,ある程度回復したCOVID-19患者は気管切開してICUから感染症病棟へ移ってもらい,次の重症患者を受け入れないとならないという状況を経験された方もおられよう。
気管切開は非常に侵襲的な気道確保法であり,合併症に十分注意して施行しないといけない。特に丁寧な止血操作は重要である。
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