別冊春号 2022のシェヘラザードたち
第10夜 曲突徙薪—「先生の麻酔は安心する」と言われる麻酔科医になれますように!
入嵩西 毅
1
1大阪大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療医学教室
pp.61-64
発行日 2022年4月15日
Published Date 2022/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200265
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「百戦百勝は善の善なる者に非ず」とは,孫子の言葉である。避けられる戦いは避けよ,という意味であるが,いったん戦いが始まればやはり百戦百勝を期さねばならない。麻酔科医にとっての戦いとは手術であり,手術室は戦場である。手術の申込を受けて麻酔管理を承諾した時,われわれ麻酔科医は戦場に立つことになる。本音を言えば,避けられる戦いは避けたいものだが,戦場に立ったからには,常に勝利を目指さなければならない。
では麻酔科医にとっての勝利とは何であろうか。若い頃は,とにかく速さと鮮やかさを目指すものだ。華麗に挿管し,入室して20分でSwan-Ganzカテーテルを留置し,鮮やかに神経ブロックを決めることに誇りを感じる。素早い導入,盤石な維持,そして美しい覚醒を達成して,勝利の余韻に浸ることも多かろう。これを独りでサクサクとこなせたら,なおさら心地よいことこの上なかろう。だが,スムーズに事が進まないとき,苛立ちから手技が雑になり,刺し跡をいくつも作ったり,周囲に粗野な振る舞いをしたりしていないだろうか。
患者が麻酔科医に期待しているのは,迅速華麗なテクニックではなく,手術が無事終わり,安全に麻酔から目覚めることであろう。「麻酔科医は物言わぬ患者の弁護人」と言われる。われわれは患者の安全を最大限に確保しなければならない。つまり,患者の安全を確保して手術を安全に終える,それが麻酔科医にとっての「勝利」である。そして,そのための危機管理こそが,麻酔科医が備えておくべき職業的技能なのだ。
今夜は,私が日本での最初期から携わってきた経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)をとおして学んだ術中の危機管理について述べたい。
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