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厚生労働省が公表している人口動態統計によると,2015年にはおよそ4000人程度が薬物または非薬用の物質による中毒で死亡している。10年ほど前からは減少傾向にあるものの,いまだ多いと言わざるを得ない。自殺の原因別にみると最多なのは「その他のガスおよび蒸気」であり,次に農薬,医薬品の中毒と続く1)。また,死に至らなくとも中毒症状を呈して救急医療機関を受診する患者が,さらに多く存在することは論をまたない。そのため原因不明の症状を呈する患者を診察する際には,中毒を鑑別に挙げて診断・治療を進める必要がある。中毒診療において,原因物質を同定することは重要であるが,救急外来に患者が来院した時点では原因不明であることや,何らかの中毒による症候であると推測できたとしても原因物質の情報がまったくない場合がある。最初から何らかの中毒と判明している場合には患者の治療にあたる前に,対応にあたる医療者自身の安全確保や除染を考慮する必要がある2)*1。
本稿では,不明中毒患者が救急外来に搬送されてきた場合の,救急外来における初療からICUまでの一般的な対応と臨床推論に関して概説していく。不明中毒という視点から論を展開する関係上,そのほとんどの問題で臨床研究の統計解析結果に裏打ちされたエビデンスは存在しない。また,広大な範囲を網羅すること,不明中毒診療の考え方(特に病態生理)の流れを知ってもらうことを本稿の目的に設定したことから,臨床研究の紹介は最小限にとどめた。本稿は,エキスパートオピニオン・コンセンサスを根拠の中心とし,それに病態生理をふまえた筆者の解釈を加える形で構成したことをここに表明する。是非,読者自身が根拠文献に当たり,中毒診療の深淵を覗いていただきたい。
Summary
●急性薬物中毒は摂取した薬物の種類により症状は多彩で,時として重症化し,集中治療を要することがある。
●救急外来では来院時に薬物中毒と必ずしも判明しているわけではない点が,評価や治療をさらに困難にさせている。
●原因不明の症状(意識障害,ショック,痙攣発作など)を呈する患者を診療する場合には何らかの中毒を念頭において対応する。その際,通常の救急患者の診療と同様にまずprimary ABCの安定化に努める必要がある。
●トキシドロームの概念を知ることで,バイタルサインや特徴的な症状・身体所見のパターンから原因薬物の推定,治療に直結させることが可能である。
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