徹底分析シリーズ 知っておきたい 鍼治療
鍼灸の“生きた”歴史—日本鍼灸の現状分析
長野 仁
1
Hitoshi NAGANO
1
1森ノ宮医療大学大学院
pp.992-997
発行日 2019年10月1日
Published Date 2019/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201488
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鍼灸の歴史は長らく伝説の祖述に甘んじてきたが,20世紀の後半から人文科学と呼べる段階へ突入した。それは1960年代後半から始まった中国の考古学的な発見1〜3)および文献学や医古文の成熟4,5),1970年代後半から盛んとなった日本の国宝・重要文化財を基軸とする現存史料の書誌研究6,7)と影印公開(コメント1)によってもたらされた一大変革であった。さらに2010年以降は,古医籍のデジタル・アーカイブス化が進展し,漢韓籍とその和刻本はもちろん,著名医家の自筆本から通俗書の版本に至る国内の現存書が,インターネット上でしかもフルカラーで閲覧できるようになってきた(メモ1)。まさしく「大公開時代」の幕開けである。
一次史料を利用しやすくなったとはいえ,鍼灸の歴史は「竜頭蛇尾(古代>現代)」かつ「西高東低(中国>日本)」で叙述されるのが常である。世界に類例のないユニークな医術の歴史となれば,その起源に最も関心が高まるのは当然だから仕方がない8〜14)。しかし,古代中国(出土文物・伝世古典)の研究成果に紙数のほとんどを費やしてしまえば,現代の日本鍼灸の直接の淵源となる近世(流派勃興と「腹診」「打鍼」「管鍼」の創意,など)から近代(法整備と「小児鍼」普及の関連性,古典復興すなわち経絡治療・太極療法の誕生,など)を詳述する余裕は残されていないのである。
とはいえ,鍼の臨床応用を前提とする麻酔科専門誌の特集となれば,古代への憧憬より概説としても機能する“生きた”歴史のほうが望ましいであろう。そのためには,古代の中国と現代の日本を紐帯する近世から近代の歴史(戦国〜昭和前期)を中核に据えるのが最適と考える。
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