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■「みんな!ニューヨークへ行きたいか~っ!!」の『アメリカ横断ウルトラクイズ』にはずいぶん楽しませてもらいました。それから,『全国高等学校クイズ選手権』,これは夏の風物詩的番組(ウルトラクイズばりの最初の頃のほうが好きでした)。では,第一問,「『徒然草』の作者は誰?」。回答権を得るべく素早くスイッチを押し,「吉田兼好」と自信をもって答え,まずは一問正解,次の問題は…と身構えます。しかし,「本当にそれでよいですか,根拠はありますか,“final answer?”」,と突きつけられると,それまでの自信は崩れ始めます。そもそも,吉田兼好著『徒然草』といった書など,鎌倉時代後半には出版されてなんかいない。それどころか,著者の自筆本すら現存していない。となると,聖徳太子同様,吉田兼好は実在しなかった!なんてこともあり得るわけで…
現在われわれが手にする,活字で組まれ,いたるところに注釈がある『徒然草』(受験参考書ともなると,文法的な説明はもちろん,全訳読解などというものもあります),いったいどのようにしてできあがったのか,その成立に疑問をもったことなど一度もありません。そう高校の授業で教わり,試験にも出たし,巷には,現代語訳を含め,さまざまな形の『徒然草』があふれているわけですし。
この夏,積んでおいた講談社学術文庫,小松英雄著『徒然草抜書』を開いて,それまで疑ってもみなかった,名高き古典,『徒然草』のこれまでの常識が実は曖昧なものであったことに気づかされました。作者のことも,「いろいろの事実を総合して得られた推定であり,それが広く受け入れられている」ということで,「そこに論証の過程があることを忘れては」ならないとあります。この『徒然草抜書』の趣旨は「一般に,われわれは,あたかも規定の事実であるかのように教えられた事柄をなかなか疑わないものですが,つねに知識の根拠を問いなおし,原点に立ちもどってみずから考えるために,その考えかたについて考えてみようという」もの。
「つれづれなるまゝに 日くらし すゞりにむかひて 心にうつりゆくよしなし事を そこはかとなく書つくれば あやしうこそものぐるほしけれ」の冒頭,「退屈のあまり,一日中硯に向かって~」と一読しても,そこには何ら疑問は生じないのですが,「それは,教えられたことや読んだことを鵜呑みにしているからであって,常識的に行われている解釈の根拠を求めてみると,いろいろとわからないことがでてくる」と著者は言います。「表面的にしか読まれていないので,これを書いた作者の真意も,まったく取り違えられて」いると,本題に入っていきます。じゃあ「つれづれ」「日くらし」って何だ…,気になられた方は,是非本書をお読みください。
常識にとらわれず,何事も批判的にみなければいけないということ,思い出してみれば,LiSA創刊時からの基本的なコンセプトの一つでした。文献も,孫引きではなく,原典に当たる。これまで確実と思われたことにも疑いの目を向けるとなると,Vol.20をひかえた,今,LiSAそのものを批判的に吟味しなければならない時機にきているのかもしれません。より高次に向けて。それは読者の方々の役目です。
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