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Anesthesia & Analgesia
Editorial:
London MJ. Do let the blood pressure fall : but maybe not so much or so often. Anesth Analg 2011 ; 113 : 7-9.
Article:
Aronson S, Dyke CM, Levy JH, et al. Does Perioperative Systolic Blood Pressure Variability Predict Mortality After Cardiac Surgery? An Exploratory Analysis of the ECLIPSE trials. Anesth Analg 2011 ; 113 : 19-30.
麻酔科医は,周術期の血圧や心拍数のコントロールにいつも心を砕いている。周術期合併症の発生と血行動態変化については,何十年にもわたって多くの研究がなされている。1990年代からは,周術期の心拍数コントロールやβ遮断薬の投与に大きな関心が向けられてきた。
今回取り上げたAronsonらの研究は,evaluation of clevidipine in the perioperative treatment of hypertension assessing safety events(ECLIPSE)trialで得られた収縮期血圧と術後30日死亡率に関するものである。clevidipineは,超短時間作用性降圧薬である。ECLIPSE trialは,冠動脈バイパス術患者や弁置換・弁形成術患者におけるclevidipineとニトログリセリン,ニトロプルシド,ニカルジピンを用いた高血圧治療のオープンラベル前向き無作為化研究である。1512名の患者が解析の対象となっている。
この研究では,収縮期血圧の異常と,その持続時間をパラメータとしている。収縮期血圧が,術中は65~135mmHg,術後は75~145mmHgからはずれた持続時間を求めている。post hoc分析では,収縮期血圧を10mmHg刻みで分析している。患者の平均年齢は64.8歳,30日死亡率は3.2%であった。48名の死亡患者のうち,21名の死因は心血管系,11名は呼吸器系,7名は多臓器不全であった。血圧と持続時間AUCが60mmHg×min/hrでの30日死亡率のオッズ比odds ratio(OR)は,1.16(95%信頼区間1.04~1.30)であった。AUCが120mmHg×min/hrではOR 1.35(1.08~1.68),180mmHg×min/hrではOR 1.56(1.12~2.17),240mmHg×min/hrではOR 1.81(1.17~2.81),300mmHg×min/hrではOR 2.10(1.21~3.64)と上昇した。この関係は,高齢者(>73歳),長時間手術(>4.12時間),貧血(術前ヘモグロビン値<12.5g/dL),腎機能低下(Cr>1.20mg/dL),COPD合併,術前の収縮期血圧>160mmHg,拡張期血圧>105mmHgでは特に顕著であった。
麻酔科医は血圧変動を少なくするように努力しているが,その正当性を裏付けるデータは意外と少ない。本研究は比較的患者数が多く,術式も比較的限られている点から,信頼性が高いものと考えられる。しかし,血圧変動と死亡率との因果関係,治療薬の影響など不明な点も多い。
さて,あなたの心臓手術患者さん,血圧は落ち着いていますか。
(稲田 英一)
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