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肥満は,糖尿病,脂質異常,高血圧,脂肪肝,睡眠時無呼吸症候群,腎障害,関節障害,月経異常などをもたらし,さらに冠動脈疾患や脳血管障害といった重篤な合併症を引き起こす。この肥満症の増加が世界中で大問題になっている。しかし日本では,特にBMI 35以上の高度肥満が少ないためか,また肥満がもたらす合併症などのしっかりした調査がないためか,肥満の疾患としての認識は今一つである。そこで当院では高度肥満患者を対象に5年間の追跡調査を行い,若年から高率に合併症を引き起こすことを明らかにした。しかも日本人は,軽度の肥満でも糖脂質代謝異常を引き起こしやすい体質であることが知られており,日本人の肥満は世間一般の認識よりはるかに大きな問題を抱えていると言える。
肥満は治療しなければいけない疾患である。しかし,その治療原理は単純である。摂取エネルギーを制限し,消費エネルギーを増加させてエネルギーバランスを負とし,減量すればよいのである。例えば,入院環境下で食事療法にフォーミュラ食を用いると,1か月で10kg程度減量し,それに伴い糖脂質代謝の異常値が劇的に改善し,時に尿蛋白の消失をみることもある。しかし,減量治療は日常生活の中で行われるものである。食行動を中心とした生活習慣を改善し,これを長期間維持することは,実は肥満患者にとってきわめて困難なことであり,長期予後は多くの場合不良である。一方で,肥満患者だからこそ困難である,という理解も必要になる。
近年日本でも,高度肥満に対し外科的治療が行われる機会が増えてきた。肥満外科手術は,減量効果や合併症改善効果が高く,長期予後も良好であることが海外のデータで示されている。しかし,高度肥満患者は身体的な問題を多く抱え,また肥満が高度であるほど精神面のリスクも増大するため,外科的治療が成功するためには集学的なチーム体制作りが大切になる。そして何よりも,各専門家が肥満患者特有の性格特性を理解する必要がある。
本稿ではまず,内科的肥満治療の実際とその限界について,そして外科的治療も含めた肥満治療体制のあるべき姿について述べる。
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