徹底分析シリーズ 麻酔薬の二面性に迫る!
副作用のない麻酔は可能か?―麻酔と医療への冬眠応用の可能性
近藤 宣昭
1
KONDO, Noriaki
1
1玉川大学学術研究所
pp.1188-1191
発行日 2010年12月1日
Published Date 2010/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101093
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麻酔薬による麻酔状態は見かけ上,“眠り”に類似する。だが,われわれが日々経験する睡眠とは異なる生理状態にあることは言うまでもない。睡眠は神経活動の軽度な抑制を伴うが,生命維持に欠かせない正常な活動である一方,麻酔は外因性の薬物による細胞機能,特に神経機能を強く抑制した異常状態だからだ。医療に麻酔は必要だが,麻酔薬は体温や呼吸などの生命維持に欠かせない機能を障害するので危険を伴うし,睡眠は軽度の刺激により直ちに覚醒を引き起こすので麻酔としては役立たない。
そこでもう一つの眠りとして知られる“冬眠”を麻酔に応用できないかとの期待が以前からあった。一部の哺乳類でみられる冬眠は,睡眠とは異なり,冬眠中に体温が0℃近くまで低下する。そのため,体内のあらゆる細胞や組織では代謝活性が1/50~1/100にまで抑制され,生理反応も同程度にまで低下する。つまり,冬眠中はあらゆる細胞機能が極度に低下した状態にある。冬眠を麻酔に用いようとの考えは,この低温による神経機能の抑制(低温麻酔)効果を利用しようとしたものである。
しかし,通常の哺乳類では,生体はもちろんのこと,組織や臓器も低温に対する耐性は低く,時間とともに低温傷害が進行し凍死へと向かう。ここに低体温の危険性と限界があり,ヒトへの利用は致命的な傷害を受けた脳の治療や血液循環停止を必要とする場合に限られてきた。低体温を麻酔や治療へと応用するには,この危険性をいかに取り除くかという困難な問題が立ちふさがってきた。ここに,低体温での生存を可能にする冬眠の仕組みの解明が重要なヒントをもたらすと考えられてきた。
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