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15億年前の太古の時代,酸素を嫌う真核細胞と酸素を必要とする原核細胞(ミトコンドリアの祖先)が合体し,奇跡的に共生関係が成り立った結果,われわれの祖先である動物細胞が誕生したと考えられている。その後,この動物細胞は多種多様に進化してきたが,生き残っていくために,あるいはさらなる繁栄のために,需要の拡大に応じて酸素を効率よく体内に取り込み,その酸素を細胞まで運搬するシステムを確保しなければならなかった(メモ1)。
哺乳類は酸素摂取効率の高い呼吸器を獲得することにより活動範囲が拡大し,進化が可能となった。では,万物の霊長たるヒトが最も優れた呼吸器を持つ動物かというと,そうではない。哺乳類では,往復換気のために大きな死腔を生じてしまうが,鳥類はさらに進化した呼吸器を持っている。鳥類では,複数の気囊を利用して吸気時にも呼気時にもガス交換能を有する側気管支の中を気流が常に流れて死腔量が少なくなっている1)。ガス交換を効率で評価すれば,鳥類は最も優れたシステムを獲得しているといえよう。渡り鳥のなかにはヒマラヤを越えることができるものもいる。高い標高では酸素分圧が低いために重篤な低酸素血症をきたすはずだが,過換気を行うことによって低酸素血症を軽減することが可能である。高い高度を飛ぶ鳥類にとっては,死腔が小さく呼吸仕事量が少ない優秀な呼吸システムは不可欠なのだろう。
本稿では,酸素を体外から血液まで取り込むまでの過程を解説する。酸素化の程度を表す動脈血酸素分圧(PaO2)に影響を与える因子を取り上げるが,血液から組織までの酸素の運搬には,その他の因子(心拍出量,血中ヘモグロビン濃度,酸素解離曲線,末梢組織への血流分布)も大きな影響を持っている。これらに関しては,他稿を参照してもらいたい。
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