巻頭
巻頭言
須田 正巳
1
1大阪大学栄養学,衛研所
pp.243
発行日 1955年6月15日
Published Date 1955/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905827
- 有料閲覧
- 文献概要
生化学が,生物学ないし医学の一分科として存在し得た時代と,ここ15年間程の間に進歩した内容とを比較すると,誰しもその領域が著しく広範になつたのに感嘆されると思います。現在では,生化学は,生物学の諸現象面の奥にひそむ実体ないし本質を明にする為の学科として登場して居ります。ですから生物学にとつて生化学は,唯一のそして最も重要な基礎学科に転化してしまいました。これは,自然科学の発展の論理的帰趨でありまして,複雑な生物学的諸現象は,化学分子を中心とした内的連関を通じてのみ理解され,予見されるからであります。
こういう時代になりますと,生体を構成している諸物質(構成蛋白質,酵素,ビタミン,ホルモン,無機物質)等の各々の分析と共に,反転して綜合も必然的に行われる様になります。ある現象とその裏にある物質代謝。それを直接に支配する酵素系。その酵素系の中の個々の酵素蛋白質。この辺まで掘り下げて来ますと,所謂境界領域に参ります。ここで更に一歩踏み込めばそこからは,生体内高分子物質の物理或は化学の広々とした沃野がひらけます。そこで,生物学者は,どの辺で反転作戦をとるかという事が問題であります。
Copyright © 1955, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.