論述
赤血球のリピドーヘマトシドとグロボシド—ある研究の記録
山川 民夫
1
1東京大學傳染病研究所化學研究部
pp.113-122
発行日 1952年12月15日
Published Date 1952/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905685
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Ⅰ.研究を始めるまで
私は此の仕事に入るまで3,4年間,高級枝鎖脂肪酸を合成しその家兎の體内での代謝過程を追究して居たが自分としては,ある任意の物質が生物の體内に於て,如何に變化するかを追う事は,確かに生物學的意義のある仕事ではあるが,化學の研究テーマとしての面白さは,神様の造つた天然の物質の至妙さに直接觸れるには及ばないと考え出して來た。まあ仕事に飽きが來たと言えるかも知れないが,dynamic biochemistryでなければ夜も日も明けないと云う様な現在の生化學,殊に米國學派の影響に反撥を感じると云うか,その方向許りが生化學ではないと思つて居たので,有機化學にしつかりと根を下した獨乙學派のやり方を取入れて,獨自の領域を開拓したいと思つた。と言うのは,有機化學の教育を受けた自分としてはいきなりdynamicな現象に入るよりは,先ず,staticな構造に沈潜して,それからdynamicと云うかbiological activityの解明に移つて行くのが足の地についた,オーソドツクスな道と考えたからである。又,今迄,低分子である脂肪酸を得意とする故淺野先生の研究室で學んだ以上,高分子物質に進むにしても,先ず複合脂質の化學を手がけ,それから更にlipoproteinの領域に入りたいと思つた。
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