展望
比較生理學の展望
井上 淸恒
1
1昭和醫大
pp.147-151
発行日 1952年2月15日
Published Date 1952/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905632
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.比較解剖學と比較生理學
比較生理學という名稱は可なり古く,ヨハネス・ミューラーもこれを使用しているが,その内容が充實して生物學の一つの分科として,地歩を確定してきたのは20世紀に入つてからであり,その學としての歴史は若く,獨自の方法が確立しているわけでもなく,明白な研究分野が定まつているのでもなく,學的體系の成立からは程遠い状態である。從つて比較生理學の名稱の下に種々な異る内容が理解されるのであり,實際比較生理學の標題をもつ教科書も夫々著者によつて異る内容を盛つている。これは比較という言葉の概念が明白でないためである。さてこの比較の意味はしばらく保留して,比較生理學がどのような経週をたどつて發生したかを一應振返つて見ることにしよう。
比較生理學の母胎は比較解剖學である。ルネッサンスの頃から次第に地歩を確立した。比較解剖學から比較生理學は分離,獨立したのである。この間の事情は人體生理學が人體解剖學から分離したのと同じである。ウイリアム・ハアベー以前の解剖學は單なる形態の記載に停まらず,更に進んでその機能までも探求したのであつた。いわば形態學と生理學の未分化の状態で進んできたのである。
Copyright © 1952, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.