巻頭
國情と研究
若林 勳
1
1東大(立地自然科学研究所)
pp.1
発行日 1950年8月15日
Published Date 1950/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905521
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今日の國情からいえば学術研究に多くの経費を得ることは誠に難かしい.しかも戰中戰後に於ける海外新研究の報告は堰を切つたように我等の机上を襲おうとしている.その新知見を吸收するだけでも容易でない.而も新書を購うべく我等の財布はあまりにも軽い.かくて我胸中自ら暗かざるを得ないのである.
友よ.暫く草を籍いて涯しなく碧い天空を仰いで語ろうではないか,思えば自然現象はこの天空のように限りもなく廣い.舶載の新書に華々しい研究の成果が報ぜられているにせよ,ニユートンの言葉を籍りればそれは浜辺に下りて拾つた一握の貝殼の如きものともいえる.それは現下流行の問題がそこにあかあかと照し出されているに過ぎない.それは確かに現代科学の頂点ではあるが,その外には無限の問題が横たわつているのだ.
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