卷頭
生命の科學者の使命
兒玉 桂三
1
1東大・醫學部生化學教室
pp.120
発行日 1949年10月15日
Published Date 1949/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905466
- 有料閲覧
- 文献概要
牝鶏が卵をたくさん産むように,乳牛がミルクをたくさん分泌するように飼料の質と量とにあらゆる科學的検討を加え,改良に改良を重ね着々と實施している人間がさて自分のあらゆる活動の基調である健康の土臺となる榮養に關しては無關心であるのは一體どうしたことであらうか。例えばビタミンB1が特に日本人の榮養には極めて重要であること,玄米の持つているB1を度外視しては容易に必要量(1日1mg)の補給が困難であることが判つていても矢張り白米黨が横行している。9月21日朝日新聞の天聲人語氏も政府が黒い米の配給をやつている非をならし,味覺の滿足のために主婦の家庭にて再度搗精の面倒を省くためによろしく白米を配給すべしと主張している。世道人心のリーダーをもつて任ずる論説氏が榮養に對してこの程度の常識を持つているのだから洵に心細い限りである。と云つて私は玄米論者ではない又彼の云う御用榮養學者でもない。然し糠の附いた黒い米(3-7分搗)は味が少しくらいまずくつても攝取すべしと主張するものである。アメリカでは精白小麥粉にB1を加え所謂enriched flo urとして使用する事に州法律できめているところさえあるがそんな贅澤な眞似は我々には出來ない,又する必要もない。有名な榮養學者McCo llumも黒パンで結構だと云つている。
いつたい我々が毎日アクセクと働いているのは何のためか。民主主義の原則である最大多數の最大幸福を實現するためと考えるであらう。
Copyright © 1949, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.