『医学常識』
技術者の使命
鈴木 秀郎
1
1東京大学附属病院臨床検査部 血清検査室(田坂内科)
pp.181-182
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905448
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はじめに
近来大病院に中央検査室制度がしかれるようになり,その傾向はますます広まりつつある。その結果中央検査室に勤務して,いろいろな検査を担当する按術者諸君の数も急激にふえてきている。医師の側からいえばこのような検査室制度ができたことは大変便利なことである。何故なら今迄医師がなれない手つきで自信のないままに行つていた検査が熟練した技術者諸君の手で正確かつ敏速に行われるようになつたし,またやつてみたくても手技がわからなかつたり材料が不足でやれなかつたような検査も検査室に依頼すればやつて貰えるようになつた。したがつて検査室は病気の診断や,予後の判定にたいしてどの位役立つているかしれないのである。
もつともこれは検査室がよく整備され,勤務している技術者諸君が技術に熟練し,勤勉かつ良心的であり,したがつて医師の手元に送られる成績が正確かつ敏速であることを前提にしてのはなしである。万が一にも成績が誤つていたりすれば,それを参考にして診断する医師は大きな誤りをおかすことになろう。また如何に成績が確実でも時間的にあまり遅れたのでは何の役にもたたない訳である。医師の仕事は人の生命に直接関係した大切な仕事である。したがつて技術者諸君の仕事もまた人の生命に間接的に関係している訳である。医師のように直接患者を扱つて苦労もするかわり,お蔭様でと患者からお礼をいわれなぐさめられる立場に比べて,技術者の仕事は常にいわば舞台裏で行われ,報いられることも少い。それにも拘わらず,というよりはそれだからこそ技術者諸君の仕事はますます大切になつてくる。検査にあたる諸君はいつでも,このことを忘れないようにしていただきたいものである。
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