Japanese
English
主題 発生,分化・1
発生学序論
Advances in Embryology
腰原 英利
1
Hidetoshi Koshihara
1
1東京教育大学理学部生物学教室
1Department of Biology, Faculty of Science, Tokyo Kyoiku University
pp.2-12
発行日 1969年2月15日
Published Date 1969/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902794
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発生の多彩なドラマは,尨大な記載によつて描き出されてきた。これら記述の整理には形態学的にも,細胞組織化学的にも,生理化学的にも整理が任意的で,時に抽象的真実への意欲が辛うじて支えてきたといえるであろう。中でも実験発生学は形態を指標に,機能の発現の面から理解—記述の把握—に一応成功した。しかし今日,発生学は生産的でなかつたとか,発生学という分野はないのではないかといわれることの理由は,"発生"とか"分化"は"生命"と同じような意味で抽象的把握の期待でしかなく,それらの真実は個々の生物の発生分化の中にのみあるからではなかろうか。それにも係わらず,生物の発生という"tempospacial pattern"を求めるのは,物事の理解が,実証的過程からの事実の集積という遠心性と,抽象的真実への包含という求心性とから成り立つからである。発生現象の理解もこの両方向への脈動を経過して行なわれつつあり,今日の分子生物学の展開が,今までの発生学の知識大系に新しい枠と同時に混乱を惹き起こしつつあるのも,大きな脈動とみることができる。発生学の分野でも生物物理学の方法の有効性はますます発揮され,分子生物学がもたらした遺伝情報発現の制御機構と蛋白のallostcric effectsという概念の導入は広く適用されつつある。
このような巨大な脈動の中でゆれ動いているものにとつて,全貌を捉えることなど始めからできる筈もない。
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