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特集 老化
老化に伴うミトコンドリア呼吸機能障害に関係するのは核ゲノムかミトコンドリアゲノムか
Which Genome, Nuclear or Mitochondrial, is Responsible for the Age-associated Mitochondrial Dysfunction?
林 純一
1
Jun-Ichi Hayasi
1
1筑波大学生物科学系
pp.565-569
発行日 1996年12月15日
Published Date 1996/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425901151
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高齢化社会を迎えた現在,老化と糖尿病は重大な社会問題となりつつあるが,ごく最近ミトコンドリア脳筋症の原因であると考えられているミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異と全く同じ突然変異が,驚くべきことにほとんどすべての老化したヒトの組織で発見されたばかりでなく1),かなり多くの糖尿病患者の組織のmtDNAにも存在することが相次いで報告され,mtDNAの突然変異と老化,糖尿病との因果関係も大きな注目を集めるようになった2-8)。しかも,これらの生命現象にはミトコンドリアの呼吸鎖の活性低下も伴うことから,mtDNAの突然変異はミトコンドリア脳筋症という特定の病気に限定されず,極めて身近なもので健常者の体の中にも少量ながら存在し,われわれの健康に重要な影響を与えている可能性が出てきたのである。
確かにミトコンドリアは,酸化的リン酸化によるATP合成というエネルギー変換の場であり,ここに存在する独自のゲノム(mtDNA)が持つ遺伝情報のすべてはこのエネルギー変換に関係している。従ってmtDNAに突然変異が生じると,生体のエネルギー変換系は重大な影響を受ける可能性が出てくるのは当然である。しかし,逆にミトコンドリア呼吸鎖に問題が生じたからといって,必ずしもその原因がmtDNA側にあるとは限らない。これはミトコンドリア内でのエネルギー変換に必要な遺伝子が,mtDNAだけではなく核DNAにも存在するためである9)。
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