特集 現代医学・生物学の仮説・学説
7.疾病
虚血性疾患
鎌田 武信
1
,
堀 正二
1
1大阪大学医学部第一内科
pp.618-619
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900668
- 有料閲覧
- 文献概要
概説
生体はいずれの組織においても血液から酸素供給を受け,エネルギー源としている。なかでも脳や心臓はその酸素消費量が大きいため組織における酸素摂取率も高いが,エネルギー源としてのATPの貯蓄予備は小さく血液供給がなくなると脳では数秒,心臓では数十秒で機能を失い(失神,血圧低下),数分,十数分で不可逆的変化が始まる。したがって両臓器の虚血は短時間で致死的となるため,循環器疾患の中でもきわめて重要な位置を占めている。
脳卒中・心筋梗塞が各々脳血管・冠動脈の病変に基づくことが明らかにされたのはいずれも19世紀であるが,虚血性変化は臓器の相違にかかわらず,共通の部分と臓器特異的な側面がある。共通の変化は虚血により,①高エネルギー燐酸(ATP,クレアチン燐酸)が減少する,②嫌気的代謝により乳酸が産生され,アシドーシスが生じる,③虚血早期の機能低下が生じるが,細胞死にいたるまでに血流(酸素)が再供給されると機能は回復する(一過性脳虚血発作,狭心症など),ことであるが,虚血に対する耐性は臓器や組織によって異なる。脳では視床下部は虚血耐性が比較的大きいが,海馬は虚血に脆弱である。心臓でも心内膜側は虚血に弱く,局在性が存在する。脳虚血では記憶障害が生じやすく,心筋虚血で心内膜下梗塞が生じやすい理由である。
Copyright © 1993, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.