特集 現代医学・生物学の仮説・学説
5.神経科学
脳神経移植
西野 仁雄
1
1名古屋市立大学医学部生理学第二講座
pp.546-547
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900637
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概説
脳神経移植の目的は障害脳部位に神経細胞を補充し,機能修復をはかることである。一方,神経移植は発達,再生,伝達物質,受容体,栄養因子,神経回路,可塑性,遺伝子発現制御など,神経科学におけるホットなテーマを研究する有力な手段でもある。神経移植の歴史は古く,100年以前にさかのぼるが,大きな進歩はこの15年間にみられる。BjörklundとStenevi(1979)1)およびPerlowら(1979)はパーキンソン病モデルラットの線条体に胎仔ラットの脳幹ドーパミン(DA)細胞を移植すると運動症状が軽減することを見いだした。これは移植により機能改善がえられることを示した画期的な実験である。これらの報告が契機となって,現在では移植研究は脳内のいろいろな系で広く行われるようになったが(表1)2),その中で最も成果があがっているのは,パーキンソン病の治療に目標をおいたDA神経系の移植であろう。
パーキンソン病への臨床応用は1985年にはじまり,1987年にはメキシコのグループが自家副腎髄質組織を移植し,運動症状が劇的に改善することを報告した。副腎髄質細胞は,①NGFや末梢神経と同時に移植すると生着がよいこと,②細胞を分散後,混入する線維芽細胞をとり除き精製し,移植すると生着がよくなることなどが明らかになり,成果をあげつつある。
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