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われわれヒトを含む多細胞生物において,その体を構成する細胞同士は互いに独立して機能しているわけではなく,互いにネットワークを構築することで,組織の恒常性を保っている。細胞間コミュニケーションを担う結合構造の一つにギャップ結合がある。これは,形態学的にはハチの巣状の孔の集合体が電子顕微鏡で観察されるが,一つひとつの孔は隣接する細胞の細胞質同士を直接つなげるチャネルであり,それらがクラスターとなって集積することで隣接細胞同士を電気的,化学的に共役させている。“ギャップ”という表現は隣接細胞の細胞膜の間に2-4nmの隙間が存在することから名付けられ,集合するチャネルはギャップ結合チャネルと呼ばれる。電気生理学による研究から,このチャネルはギャップ結合を挟んだ電位差(transjunctional voltage;Vj),細胞膜電位,カルシウムイオンやpHといった化学的な要素など,異なる条件に応答して開閉が制御されることが知られている1-3)。しかし,チャネルの開閉と構造を結びつけた解釈,特にこのチャネルがどのような過程を経て閉じるのか,といった問題を明快に説明できる構造学的なモデルは提示されていない。
ギャップ結合タンパク質には2つの遺伝子ファミリーが知られ,脊索動物ではコネキシン(connexin;Cx)が,無脊椎動物ではイネキシン(innexin;INX)がギャップ結合チャネルを形成する。これらの間にアミノ酸配列の類似性は認められないが,いずれも4回膜貫通型の膜タンパク質で,ヘミチャネルと呼ばれる導管型の構造が隣接細胞の間で向かい合って結合する,という特徴は共通している。ギャップ結合チャネルの構造研究は,X線や電子線を用いた結晶構造解析の研究報告がなされていたが4-9),近年クライオ電子顕微鏡による単粒子解析の高分解能構造が報告されるようになった10-12)。本稿では,クライオ電子顕微鏡を中心にして行われている最新のギャップ結合チャネルの構造研究から示唆される開閉メカニズムについての知見を紹介する。
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