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ヒトの消化管,皮膚,鼻腔,口腔,泌尿生殖器といった様々な部位に合計100兆細胞の常在菌と言われる細菌がおり,ヒトの健康と密接に関係している。特に大腸には多種多様で多くの細菌が存在しており,常在細菌叢を形成している。細菌の働きによって未消化の食事が短鎖脂肪酸やビタミンなど栄養素へと代謝されて,ヒトのエネルギー源として利用されている。また,腸管の細胞を刺激することで,ヒト免疫細胞の分化や成熟化にもかかわってヒトの恒常性保持に影響している。一方で,腸内細菌叢の構造の変化は,肥満,糖尿病などの生活習慣病をはじめ,炎症性腸疾患,がん,アレルギー,アテローム性動脈硬化症,多発性硬化症,自閉症など様々な疾患と関係していることも報告されつつある。しかし,ヒト常在細菌叢は,現在の技術ではいまだ多くの培養困難な細菌がおり,個別に培養して,その特徴や機能特性を解析する手段では網羅的に解析することは難しい。このため,細菌叢の全体の構造や機能を調べる手段として,培養を介さず検体から直接細菌叢由来のゲノムDNAを取得して,網羅的にシークエンシングを行うメタゲノム解析が用いられている。
メタゲノム解析には大量の塩基配列データが必要になるが,2005年以降に従来のサンガー法を使用したキャピラリー式シークエンサーとは根本的に異なる原理で,安価で迅速に大量の塩基配列データ取得が可能な次世代シークエンサー(next generation sequencer;NGS)が開発されてきている。2005年にロシュ・ダイアグノスティックス社の454が登場し,それ以降もイルミナ社HiSeq,MiSeq,NovaSeqや,ライフテクノロジーズ社(現サーモフィッシャーサイエンティフィック社)Ion PGM,Ion Protonなどが実用化されている。これらは非常に膨大な量の塩基配列を高速に読み取ることが可能であり,従来のキャピラリー型シークエンサーと比較して,数千〜数万倍の解析能力を持つ。また,技術の改良も早く,各社とも半年から1年おきに試薬の改良や装置,ソフトウェアのバージョンアップなどが行われている。NGSの共通する特徴として,短いリードでサンプルを大量に超並列処理するところにある。また,それを可能とするために従来のサンガー法ではなく,メーカー各社が独自のシークエンス反応技術を採用してハイスループット化を実現している。NGS技術を用いることにより,ヒト常在細菌叢のメタゲノム解析は大きく進捗しつつある。本稿では,メタゲノム解析によるヒト腸内常在細菌叢の解析について解説する。
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