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細胞内では多種のタンパク質の局在が時空間的に制御され,細胞分裂や移動といった生命現象が引き起こされる。この細胞内での現象を理解するために,蛍光抗体や蛍光タンパク質を用いて標的タンパク質を標識し,その局在が蛍光顕微鏡で観察されてきた。しかし,可視光を用いた顕微鏡の分解能は,光の回折によって理論的に200nmが限界である。このため光学顕微鏡の分解能では,数nmサイズのタンパク質の観察には不十分であった。近年,蛍光標識の照明方法や励起方法を工夫することで,この光学顕微鏡の分解能の限界を超える顕微鏡法が開発された。それらは超解像蛍光顕微鏡法と呼ばれ,現在,代表的な方式としてSTED(stimulated emission depletion microscopy:誘導放出制御顕微鏡法),SIM(structured illumination microscopy:構造化照明顕微鏡法),PALM/STORM(photoactivated localization microscopy/stochastic optical reconstruction microscopy:光活性化局在性顕微鏡法/確率的光学再構築顕微鏡法)の三つに分けられる1,2)。その分解能によって,蛍光標識された二つの物体を分離識別できる間隔は,従来の光学顕微鏡の限界より一桁小さい間隔まで可能となっている。これらの顕微鏡法を用いて,細胞内で回折限界以下の狭い領域での標的タンパク質の分布が画像化されている3,4)。2014年のノーベル化学賞の受賞対象にも超解像蛍光顕微鏡法の開発が選ばれ,この顕微鏡法は世界中で急速に広まりつつある。
しかし,分解能がタンパク質のサイズに近づいたため,得られる顕微鏡画像が標的タンパク質の分布を必ずしも正確に反映していないことが問題になっている5,6)。蛍光顕微鏡の分解能は,蛍光標識された二つの物体が分離識別できる間隔だけでなく,物体の標識率によっても決定される。ナイキストのサンプリング定理によると,標識された物体の間隔の2倍以下の範囲では,物体の分布や形状は正確に捉えることはできない5-8)。例えば,20nmの分解能を得るためには10nmに1個の標識が入る必要がある。しかし,抗体の大きさは10nm余りあるため,20nm以下の範囲では抗体同士が空間的に干渉し,その標識率は制限される。また,蛍光タンパク質を融合させた標的タンパク質を発現させた場合,内在性の標的タンパク質との発現量比に応じて標識率が低下してしまう。更に複数種類のタンパク質を同一標本内で可視化することも試みられているが9),蛍光色素の種類が限られているだけでなく,狭い範囲で複数の標的分子を高効率で標識することはより困難である。このため,超解像顕微鏡では分解能が高くなったことで,不均一または低効率で標識された標的タンパク質の分布があらわになりやすい。標的タンパク質の分布を忠実に画像化するためには,より均一かつ高効率な標識方法が必要とされている。筆者らは,この標識における問題を解決するため,標的に結合解離する蛍光プローブを用いた標識方法で,タンパク質の標識率と観察できる種類数に理論上の制限のない超解像顕微鏡法IRIS(Image Reconstruction by Integrating exchangeable Single-molecule localization)を開発した10)。本稿では,IRISの原理と実践について概説する。
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