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哺乳類の生体内には一部の無血管組織(角膜や軟骨など)を除いて,全身くまなく血管網が張り巡らされている。また,その血管のパターニング,発生のメカニズムは臓器によってそれぞれ特徴があり,多くの場合,その臓器の主たる構成細胞により規定される。大脳の血管網は,胎生初期にまず脳の表面(脳軟膜)に二次元的に血管網が張り巡らされ,この間,脳の内部(脳実質)に血管は進入せず,脳実質はいわゆる無血管組織として発達する(図1A, B)。胎生約10日目になって,初めて脳軟膜の血管ネットワークから脳実質方向への垂直方向の枝分かれが生じ,その枝分かれによってできた穿通血管が脳実質内の特定の層で新たな血管叢を形成する。この一連のプロセスにより,多層から成る三次元的な脳の血管ネットワークができあがる(図1C)。大脳の血管網はこのように段階的なステップを経て形成されるが,この過程を反映して,出生後もなお,脳軟膜血管網に比して脳実質の血管網の密度はまばらである(図1D, E)。中枢神経系の血管形成のメカニズムを解析するうえで,ここ数年,世界的に脚光を浴びているのが発生期マウス網膜血管のシステムである1)。網膜は眼球の構成要素の一つであり,網膜の神経細胞から発する視神経は発生上大脳白質の一部であり,網膜は視覚受容に特化した中枢神経系の一部であるとされる。網膜で受容された視覚情報(光情報)は神経信号(電気信号)に変換され,視神経を通して中枢方向に伝達され,大脳後頭葉で映像として処理される。この網膜における血管ネットワークの発生は胎生期には起こらず,出生直後に始まり,大脳のそれと類似した段階的なステップを経て形成される。網膜血管網は,まず網膜の最内側の表面に沿って放射状に成長し,生後約1週間で浅血管叢(superficial vascular plexus)を完成させる。網膜本体への血管の進入は生後2週目以降に起こり,深部血管叢(deep vascular plexus),続いて中間血管叢(intermediate vascular plexus)が順次形成され,成体にみられる計3層の血管網が構築される。この大脳の血管発生と類似した,かつ単純化された血管形成のパターンは,中枢神経系の血管発生を研究するうえでツールとして好都合ではあるが,なぜそのようなパターンをとるかについては明らかではない。本稿では,あらゆる血管の成長に必須の因子として知られる血管内皮細胞成長因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)の発現・タンパク質分布の制御を基盤とする,網膜の段階的血管形成の細胞・分子メカニズムについて,当研究室の最新の成果を踏まえて概説する。
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