増大特集 生命動態システム科学
Ⅰ.定量生物学
1.分子・細胞の計測
4)細胞機能計測
(3)細胞内輸送の定量的解析
岡田 康志
1
Okada Yasushi
1
1理化学研究所 生命システム研究センター 細胞極性統御研究チーム
pp.406-407
発行日 2014年10月15日
Published Date 2014/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200012
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■ミクロの宅急便
われわれの生活はトラックによる物流に大きく依存している。同様に細胞の中では,微小管に沿った分子モーターによる物質輸送が,細胞内の兵站として重要な役割を果たしている。近年,蛍光ライブイメージング法の進歩により,タンパク質,脂質,mRNAなど様々な物質が,キネシンなどの分子モーターによって輸送される様子が観察できるようになった。まさにミクロの宅急便である。そして,トラック輸送が滞ると日常生活に支障が出るのと同様に,細胞内輸送の障害は様々な疾患に直結する。例えば遺伝性痙性対麻痺や先天性外眼筋線維症などの神経変性疾患の原因として,キネシンや微小管(を構成するチューブリン)遺伝子の変異が多数同定されている1)。また,神経細胞における情報伝達の場であるシナプスで機能する分子群を輸送するキネシン(KIF1A,KIF17)の増加・減少により,記憶学習能力が向上・低下することがマウスを用いた実験により示され,記憶や学習においてもキネシンによる物流が律速となることが示唆された。おもしろいことに,記憶学習能力の向上がみられるのは,キネシンの量が2倍程度に増えたときで,更に大過剰に増やしても輸送はかえって抑制され,マウスは死んでしまう。このことは細胞内輸送系をシステムとして定量的に理解することの重要性を端的に示している。
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