特集 神経学における最近の研究
<生化学>
軸索内輸送
小宮 義璋
1
1東京大学医学部脳研究施設生化学
pp.722-723
発行日 1978年7月10日
Published Date 1978/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904908
- 有料閲覧
- 文献概要
軸索内輸送という現象がはじめて記載されて1)からすでに30年を経過した。初期の研究は主として神経の成長・再生と関連した形で進められ,結紮がほとんど唯一の実験手段であった。その後,放射性同位元素が導入されたことにより,結紮実験にともなう多くの非生理的な難点が克服されるとともに,神経再生とは切りはなした形で軸索内輸送の研究が,可能になったといえる。このような揺籃期をすごした軸索内輸送の研究は,1960年代の後半から1970年代の初めにかけてなされたいくつかの重要な発見により,飛躍的な発展をとげるとともに質的にも大きく変貌した。その第一は,1966年から1968年にかけて,それまで見出されていた1〜3mm/日の流速を持つ遅い流れの他にその100倍程度も速い流速を持つ速い流れが見出されたことである2〜4)。速い流れの発見は,軸索内輸送とシナプスとの関連性が注目を集めるきっかけとなった。第二は1968年から1969年にかけて,コルヒチンが軸索内輸送を阻害するという報告がなされたことである5,6)。この観察は軸索内輸送の機構に微小管という生物界に広く分布している構造が深い関連を持っていると解釈され,これによって軸索内輸送をより広い生物学的視野から研究を進める機運が生み出された。第三は1970年から1971年にかけて,軸索末端から細胞体へ向かう上行性の輸送が見出されたことである7)。
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.