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難病中の難病デュシェンヌ型筋ジストロフィー症は,発症小児男子が成人までに確実に死に至る疾患として両親,特にキャリヤーである母親にとっては苦難の疾患であった。どう攻めてよいかも分らなかった時に,ハーバード大のクンケル博士による原因遺伝子,ジストロフィンの発見は事態を一変させた。治療など夢と考えられていたこの疾患の治療法がいくつか考えられるようになったのである。その中で日本の研究者の貢献も目覚ましいものがある。一つの方法の導入で国際的にも中心的な役割を果たしている武田博士にお願いして,この特集を組んでいただいた。特集はデュシェンヌ型以外の筋ジストロフィーも多少含んでいる。最新の知見を集めようとした結果,テーマ数は予想以上に増えてしまった。原稿の到着は意外と早く,待っていたクンケル教授からの原稿も最後に届き,これでやれやれと思った。
そして2011年3月11日,巨大地震と未曾有の津波が東北関東の太平洋側を襲った。私は現在,定職を離れ気ままに東大駒場で実験をさせてもらっているが,この時の地震はただごとではないという感じで外へ飛び出した。同室者が車にテレビを持っていたのですぐNHKを見たが,驚いたことに地震のことは一言も言わず,ただ「津波がきます。直ぐ逃げて下さい。高い方へ逃げて下さい」と流し続けていた。2万以上の方々の命を奪ったのは確かに大津波であった。その意味ではNHKはよくやったと思うが,現地の方々は地震による崩壊と断線でテレビなど見られなかったのだ。さらに福島第一原発の事故が,地震,津波に続く第三の広範囲の責め苦としてわれわれにのしかかっている。この原稿を書いている今も,この事故がどうなるかわからない,命がけの修復努力が続けられているが,最小の被害で収束することを祈るばかりである。
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