Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
新しいTGF-βファミリーに属するペプチド性増殖因子の一つとして,Growth Differentiation Factor 8(以下GDF8と略す)が1997年に発見された。GDF8遺伝子ノックアウトマウスの表現型は全身骨格筋の著しい肥大であったことから,GDF8は骨格筋増殖抑制因子という意味で,マイオスタチン(Myostatin;以下Mstと略す)と呼ばれるようになった1)。また,自然界でもMst突然変異による筋過形成の家畜牛が発見されている。そのMst遺伝子を解析した報告によると,PiedomonteseではMst遺伝子の1056番目のグアニンがアデニンに突然変異した結果,Mst蛋白の成熟領域内313番目のシステインのチロシンへの置換という変異が検出され,Belgian BlueではMst遺伝子の937番目から947番目までの11塩基欠失によるフレームシフトによりストップコドンが生じ,Mst蛋白の成熟領域を欠失していた2-4)。西ら5)は,Belgian Blueと同様のフレームシフト変異によるMst変異型トランスジェニックマウスを作製し,このマウスの骨格筋が野生型マウスと比較すると明らかに増大していることを報告した。
Mstは2回の蛋白質分解による切断過程で活性化される。最初にシグナル配列(N末端側の先頭の約20残基のアミノ酸残基)が除去され,次に4ヵ所の塩基性切断部位(RSRR)で切断される。Zhuら6)は,Mstの切断部位RSRRをGLDGに改変したドミナントネガティブ型のMstを発現したトランジェニックマウスを作製し,筋肉の過形成hyperplasiaは生じないが,肥大hypertrophyが生じることを報告した。これらの結果は,骨格筋増殖抑制因子のMstを抑制すれば骨格筋形成が促進することを示唆しており,Mstをターゲットとした抑制による筋ジストロフィー症の治療の可能性があることが示唆された。さらに,ヒトMst遺伝子異常症例が発見され7),症例では筋容積や筋力の増加が認められたことから,Mst抑制による筋ジストロフィー治療応用が期待されてきた。これまで,Mstをターゲットとした基礎研究が行われ,さらに治療法に関する研究が行われ,様々な方法が開発されてきたので,それらについて紹介し,この治療法について議論する。
Copyright © 2011, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.