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[用いられた物質/研究対象となった受容体]
フェンシクリジン(PCP),SKF10047,NE-100,リムカゾール/σ1受容体
過分極誘発カチオンチャネル(hyperpolarization-activated cation channels:以下HCNチャネル)は,心臓の洞房結節で最初にその存在が示されたが,現在では末梢組織から中枢神経系まで幅広く分布することが明らかとなっている。細胞が過分極すると活性化されて内向き電流を生じ,膜電位を脱分極方向に戻そうとする働きを担う。また,HCNチャネルは静止膜電位付近でも一部は開口しているため,細胞が脱分極すると閉じることによって外向き電流を生じ,膜電位を過分極方向へ戻そうと働く。中枢神経系では,HCNチャネルは静止膜電位の決定に寄与して細胞の興奮性に大きな影響を与えるだけではなく,樹状突起や神経終末にも存在して神経伝達の調節に対しても調節機能を有することが報告されている。そのため,HCNチャネル活性のわずかな変化が神経ネットワークに大きな影響を与える可能性があり,細胞の興奮性や神経伝達効率の変化を背景とするような中枢神経疾患とHCNチャネルとの関係も示唆されている。その例として,HCNチャネルはてんかん発作閾値や神経細胞の虚血に対する抵抗性に影響を与えることが報告されている。
本稿で取り上げるphencyclidine(PCP)には,精神神経症状を引き起こす他に,てんかん発作抑制作用や神経保護作用がある。PCPの薬理作用の多くは興奮性アミノ酸受容体NMDA受容体のPCP結合部位を介するNMDA受容体阻害作用に由来すると考えられているが,PCPはそれ以外にもK+チャネルやCa2+チャネル阻害作用などを有する。しかし,HCNチャネルに対する作用は詳細に検討されてはいなかった。また,PCPはσ受容体にも親和性があり,σ受容体リガンドのいくつかのものはPCPが阻害するK+チャネルに対しても阻害作用を示すことが報告されていることから,PCPの他にもσリガンドのSKF10047のHCNチャネルに対する作用も併せて検討した。
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