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神経細胞におけるシグナル伝播(propagation)は,化学物質による伝達(neurotransmission)と電気的な伝導(conduction)によって制御されるのは周知の事実である。現在まで,シナプス間隙における情報伝達に関しては,生化学的,薬理学的あるいは分子生物学的に膨大な解析がなされているが,それに比べて神経伝導調節機構に関する解析は,局所麻酔薬に関するものを含めても圧倒的に少ない現状である。一方,磁気の物理的性質を考慮すると,複雑な細胞間ネットワークを構築して“電気信号”による情報交換を頻繁に行う神経細胞においては,磁気照射がシグナル伝達機構に何らかの影響を与える可能性は否定できない。事実,磁場曝露に伴い脳内ではc-Fosが誘導される1)など,神経細胞の信号応答性に対して,磁場曝露が影響を与えるとの知見が散見される2)。さらに,精神科領域では電気的ショック療法に替わる,安全かつ簡便な非侵襲的代替療法として,磁場を応用した反復性経頭蓋磁気刺激法(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)の有効性が,多くの臨床的研究で示されている3)。特に,難治性うつ病,強迫性障害,あるいは統合失調症などの患者で,rTMSによる症状改善例報告があることは興味深い4)。
以上の観点から,われわれは磁場の脳機能に与える影響を解析する目的で,初代培養海馬神経細胞を用いて,静磁場曝露の影響について評価を進めてきた。現在までに,持続的曝露,短時間曝露,あるいは反復性曝露を行うことによって,特に海馬神経細胞におけるNMDA受容体発現の変調を見出している。さらに最近では,短時間の一過性静磁場曝露に応答する海馬内遺伝子群の探索を試みて,磁場応答性遺伝子の同定とその機能解析を通じて,海馬神経細胞の磁場シグナル受容機構の一端を明らかとした。本稿では,このような磁気照射と生体環境応答システムとの関連性を考察し,磁気照射による中枢神経系機能のモジュレーションの可能性について述べたい。
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