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nagie oko(nok)は,網膜層構造形成に異常を示すゼブラフィッシュ突然変異体として1996年に報告された1)。ゼブラフィッシュの網膜は,他の脊椎動物と同様に,6種類の神経細胞と1種類のグリア細胞から構成される。これらの網膜神経細胞とグリア細胞は共通の前駆細胞に由来し,その運命決定は細胞系譜によらないことから,前駆細胞は外部環境の影響を受けて,異なる種類の神経およびグリア細胞を作ると考えられている。神経細胞分化が始まる前の網膜は,1層の神経上皮細胞から構成され,前駆細胞は脳室側(色素上皮側)で細胞分裂を行い,生まれた神経細胞は水晶体側へ移動して,細胞種ごと異なる細胞層を形成する。nokでは,網膜の神経上皮細胞が極性を失い,脳室側に形成される接着帯も維持できない。その結果,本来脳室側で分裂する前駆細胞が神経網膜内にランダムに散らばって位置する。この分裂細胞の位置異常が原因で,神経細胞層が正常に形成できないと考えられる。
2002年J. Malicki博士らによってnok遺伝子が同定され,MAGUK(membrane-associated guanylate kinase)ファミリーに属する蛋白質をコードすることが明らかになった2)。これはショウジョウバエのstardust(sdt)相同遺伝子である。ショウジョウバエのsdt変異体は,胚上皮の細胞極性に異常を示す変異体として同定された。この系では他に,細胞極性の異常を示す変異体としてbazooka(baz),crumbs(crb),scribble(scrib)変異体が単離されている。分子生物学的および遺伝学的解析から,BazはPar3のホモローグでaPKCやPar6と複合体を作り,Crbを細胞の先端(apical)側に局在させる。CrbはSdtやDisc lost(Dlt)と複合体を作り,連続した接着帯の形成に働く3)。またCrb/Sdt/Dlt複合体は,基底膜(baso-lateral)側の形成に働くScribと拮抗し,先端側の性質を維持することが明らかになっている4)。ゼブラフィッシュの網膜においても,Nokは網膜上皮細胞内の接着帯のすぐ先端側(脳室側)に局在すること,nok変異体では接着帯の形成が不連続になることから,NokもSdtと同様に細胞極性や接着帯形成に関わると考えられる。細胞移植の実験では,nok変異は網膜層構造の形成に関して細胞非自律的に振舞う2)ことから,Nokは神経上皮細胞や色素細胞で発現する他の分子を介して隣接する細胞の極性を維持すると考えられる。しかし,そのメカニズムはまだ不明である。
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