特集 タンパク・遺伝子からみた分子病―新しく解明されたメカニズム
15.神経系
フクチンfukutin(FCMD)
戸田 達史
1
Tatsushi Toda
1
1大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学
pp.514-515
発行日 2005年10月15日
Published Date 2005/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100488
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フクチンは福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)の原因遺伝子産物であり,FCMDは1960年福山らにより発見された常染色体性劣性遺伝性疾患である。わが国の小児期筋ジストロフィー中Duchenne型の次に多く,日本人の約90人に1人が保因者と計算され,日本に1,000~2,000人位の患者が存在すると推定されるが,海外からの症例はないに等しく,日本人特有の疾患である。本症は重度の筋ジストロフィー病変とともに,高度の脳奇形(敷石(2型)滑脳症)が共存し,さらに最近は近視,白内障,視神経低形成,網膜はく離などの眼症状も注目されている。すなわち本症は遺伝子異常により骨格筋-眼-脳を中心に侵す一系統疾患である1)。
われわれはポジショナルクローニングにより原因遺伝子を同定した2,3)。患者染色体のほぼ90%には同一の変異がみられ,原因遺伝子の3'非翻訳領域内に約3kbのDNA挿入があり,mRNAの発現が検出できない。この挿入配列は,今から約100世代前の一人の祖先から今日の患者の大部分へと受け継がれたものと推定され,動く遺伝因子である「レトロトランスポゾン」である。正常遺伝子の産物蛋白質はフクチンと名付けられ,461個のアミノ酸からなる分子量53.7kDの蛋白であり,細胞内ではゴルジ体に局在し,相同性を示す既知の蛋白やモチーフ検索から,糖鎖修飾に関係する蛋白である可能性が示唆されている。
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