特集 タンパク・遺伝子からみた分子病―新しく解明されたメカニズム
2.酵素および酵素制御
ATPシンターゼa鎖/ATPアーゼタンパク6(MT-ATP6)
後藤 雄一
1
Yu-ichi Goto
1
1国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第二部
pp.376-377
発行日 2005年10月15日
Published Date 2005/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100432
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ATPシンターゼは電子伝達系酵素複合体ⅤまたはF1Fo-ATPaseとも称され,10-16個の核DNA上にコードされたサブユニットと2個のミトコンドリアDNA(mtDNA)にコードされたサブユニットa鎖(MT-ATP6)とMT-ATP8で構成される。ヒトのa鎖はmtDNAの塩基番号8527-9207に,もう一つのサブユニットMT-ATP8は塩基番号8366-8572にコードされており,8527-8572の部分はフレームを違えてオーバーラップしている。この2個のサブユニットはミトコンドリア内膜に組み込まれるように存在するFo部分の一部を構成し,疎水性のアミノ酸(a鎖は47.6%,MT-ATP8は37.7%)が主体である。
ヒトの病気との関連でa鎖の変異がはじめて報告されたのはT8993G変異である。Holtらにより,発達の遅れ,網膜色素変性,けいれん,失調,神経原性の筋力低下,感覚性ニューロパチーを症状とする家系で,本変異がヘテロプラスミーで見出された1)。症状の組み合わせから,Neurogenic weakness,ataxia,retinitis pigmentosa(NARP)と呼ばれ,また報告した研究者の所属していた施設名からQueens Square diseaseとも呼ばれた。その後,この変異は母系遺伝を示すLeigh脳症患者でも発見され,その場合は変異率が極めて高くほぼホモプラスミーの状態(95%以上)になっていることが判明した2)。一方,NARPの場合にはそれよりやや低い変異率であり,一家系内にNARPとLeigh脳症が混在している場合もある。
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