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はじめに—「離島」に留まらない「シマ」の視点
日本は、小さな島国だ。ゆえに、「シマ」という言葉は離島を指すだけではなく、古来より日常生活においてさまざまな意味で使われてきた。
たとえば、今でも奄美地方などでは、1つの島の中に複数ある集落単位の共同体を「シマ」と呼んでいる1)。本稿において「シマ」とは、単に離島を指すのではなく、人間が心豊かに生きていくうえで欠かせない「頼りになるものごと・よすが」を意味する。日本人が支え合って生きるためのコミュニティの単位として、シマは重要な役割を担ってきた。
しかし、近代化と効率化の中で、シマの存在感は弱まってしまった。SNS(social networking service)で多くの人とつながり、お金で買えるサービスやモノがあふれる時代において、共に生きる存在としてのシマを意識しなくてもよい暮らしは便利かもしれない。一方で、経済力や精神的余裕がないなど日常の中で回復するためのシマがない人々の多くは、社会的孤立をはじめとする健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)が他者に認知されないまま深刻化し、疾患として顕在化して初めて支援者と出会うこととなる。最初に出会う支援者の中でもプライマリ・ケア従事者の役割は大きい2)。
人口減少、孤独・孤立の増加、気候変動、不穏な世界情勢。不安が渦巻く現代において、人間が心豊かに生きていくための考え方として「シマ思考」が2024年に提唱された1)。現代社会で失われかけている有機的なシマの集合体として、文化人類学、経済学、アートなどの多くの分野で、離島が注目されている。
本特集は、離島医療に注目することで、あらゆる地域、医療機関のプライマリ・ケア従事者にとっても学びとなる「シマ思考×医療」の視点を伝えることを目指す。
シマには、プライマリ・ケアの未来の姿がある。

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